ベルリン1888の考察ー二つの謎ー
読む機会があったので、ベルリン1888という、森鴎外作の舞姫について考察している研究論文(前田愛氏著)について述べたいと思う。
空間論および都市論の立ち位置から、舞姫ことエリスの存在を論じているのだが、文中にエリスが「豊太郎を迷宮に導きいれる案内者」であり、「その中心に秘められた謎の女性」でもあると書かれている。
これは一見相反するもののように思われるが、実際ここには二つの謎が表現されている。以下二つの対比構造について見ていきたい。
1.エリスのまなざし⇔「クロステル巷の古寺の門」
・向こう側にひろがる未知の世界からの促し⇔生きられた世界をかぎる標識
・エリスのまなざしの誘い⇔かたく閉ざされた教会の扉
・かくされた中心へ人間を魅きよせずにはおかない⇔空間を錯綜させることで侵入をこばむ(迷路特有の両義的な構造)
2.エリスのまなざしが問いかける謎⇔豊太郎が入り込んでいく迷宮に用意されている謎
…エリスのまなざし:豊太郎の心をその奥底から揺り動かす力を持つ
心の暗がり、闇の深さを一層際立たせる
対象化する視線(豊太郎はウンテル・デン・リンデンのバロック空間に向けてその遠近法的な構図を対象化する視線を投げかけている)
(対象化…自分の内面を外部の対象として認識しなおす行為)
…迷宮の謎:エリスに導かれて辿る、エリスの部屋にたどり着くまでの過程で暗示
無意識の深みに下降する(自分自身の内側に還っていく)工程を空間の次元に変換した一種のイニシエーション
豊太郎の感じたいっときの恍惚感
夢見るまなざし
結論
エリスのまなざしによって、豊太郎は自身がそれまで関知していなかった内面を対象化でき、そこにかくされていた中心にあったのはエリス(との生活)ということかなと思いました。